2008.09.29 社長のブログ9:また、ホールについて/日経の記事より(その1)

はじめに: 2008年9月15日付け「日本経済新聞」の『謎かがく』 という欄に“コンサートホールのよい音って?“という記事がありました。この記事の視点で見落とされているきわめて重要なことがあります。ホールにもうるさい私として、指摘したくなりました。「日経」の内容は、凡そ以下のとおりです。
『日本には、1980年代以降優れたコンサートホールが建設された。決定打はない。満席時の残響時間2秒がよいホールとされた。残響は客席数や、オーケストラの規模によって異なる。残響2秒は2000人規模で、大編成のオーケストラに向いている。室内楽など小編成の場合、1.5秒でもよく、コーラスは2.5秒くらいでも適している。残響にかかわる指標では、1客席当たりの容積も参考にされ、1客席当たり10立方mがめやす。ホールの音を決める要因として、残響感、方向感、広がり感など6項目を挙げる。結局、音の良し悪しには主観が付きまとい、現在は、失敗をしないホールを作りにはどうするかが分かってきた段階だ。このため、大きさが10分の1の模型を作り周波数などを調節した音を実際に響かせる手法が採用されている。編集委員永田好生』
私のつたない経験で言うと、よいホールかどうかを決める際の要因として、もっとも考慮すべき項目は、音楽の種類、つまり、ステージ上の音が、何箇所から出てくるかであると思う。ピアノ、ソロの場合の1点か、楽器又は声楽など伴奏の伴う2点か、又はアンサンブルなどと、合唱、オーケストラの無数か、が重要である。集約すれば、1点か、複数かという対比でもよい。
ドイツのデユッセルドルフには、昔のプラネタリウムを改造したコンサートホール、“トーンハレ”がある。このこけら落としは、オーケストラで、音響上も大成功との批評が新聞にでた。次のピアノソロ演奏では、鍵盤を叩く時にでる、“こつ、こつ”という音が異常に強調される席、ピアノの音が全て2重に聞こえる席、普通に聞こえる席などが出現した。そして、その後、天井の丸い部分に、縦の反射板を沢山つるし、何度、矯正されてきた。武満記念の「東京オペラシテイ」も1階真ん中辺り(高額な席)は、オペラの場合、歌い手の声が聴きにくい。オケの音が位置の関係から、歌い手の声より前に聞こえ、歌の空気の振動が、消されてしまうからである。オケピットの穴の大きさとか位置の関係もあろうが、オケの残響が長ければ長いほど、消されてしまう。2階席は総じてよい。
ヨーロッパのホールは客席が、上下に高い。これは、円筒形の、劇場、オペラを想定して作られている場合が多いからであろうか。“バイロイト”の歌劇場にしても、後ろの席の人の足の位置が、前の人の肩のあたり、という急勾配である。オペラであるから、ステージの歌手の声が、急勾配の客席に、満遍なく、より近く飛び込んでくる。また、「シューボックス型」(靴の箱のような長い立方体)のホールは、アンサンブルはいいとして、ピアノソロの場合、フォルテの音が、ホール内の空気振動の跳ね返り音として、客席上の空間で残り、続く音がもやもやして鮮明さに欠けてしまう。ベヒシュタインのように立ち上がりの鋭いピアノの場合、そのもやもやがよく分かる。最近のシューボックス型は、振動を乱反射させるべく、いろいろ工夫はされているが、どちらかと言えばアンサンブル向きである。小ホールの場合はいずれも残響は大して問題にならない。大ホールで、概して、“音響がよい”、とされるホールも、音楽の種類によってダメな場合も多い。いろいろな新設大ホールで、オケの指揮者などが “このホールはすばらしい!” などと安易に言うので、“チョト マテ クダサイ!”といいたくなってしまう。
また、ソロなどの場合は、残響の短さは演奏家の工夫を要求することになる。更に、特にピアノの場合、一点から音が出るので、ステージでのピアノの置かれる位置も大いに関係する。そして私の経験では、どの場合も、「すり鉢型」、「ギリシャ・ローマ時代の野外劇場型」ホールがもっとも良い、と思う。
この文章は、“コンサートホールのよい音って?”という「日経」の記事であるから、ステージ上の音源の数がいかに重要か、くらいわかって欲しいと思ったので記した次第である。-2へ続く。

