修理実例アルバム – 01 | ベヒシュタイン・ザウター輸入総代理店 | ユーロピアノ株式会社 | 赤坂ベヒシュタイン・センターTEL:03-6441-3636

修理実例アルバム – 01

■お茶の水女子大附属小の場合
■一橋大学 如水会館の場合
■輸入オールドベヒシュタインLの場合

■修理実例1:お茶の水女子大附属小の場合

修理に至った経緯:お茶の水女子大学に保存されているベヒシュタインピアノは、関東大震災の翌年に生徒の親から附属女学校(現附属高等学校)に寄贈されたものだった。

震災にあった後だったからこそ、「子供たちに最高の音楽を愉しませてあげたい」という思いがあったからかもしれない。以来10数年前まで音楽の授業で実際に使われていたが、さすがに痛みは激しくあちこち塗装も剥がれ落ちていた。このままでは廃棄されてしまう、そんなベヒシュタインの窮状を生徒が高校の校内新聞で訴えたのがきっかけで、卒業生の寄付で全面修復することが決まった。

2002年ユーロピアノは修復作業の依頼を受け、修復作業には9ヶ月要した。弦もすっかり張替えられ、塗装も天然顔料で塗り替え、譜面台も当時のデザインを活かし修復した。現状ピアノの評価:お茶の水女子大付属小学校・音楽教室に置かれたベヒシュタインは子供たちがいつでも弾くことができる。

生徒企画の恒例のミニコンサートや2010年1月ニューイヤーコンサートとして卒業生でベヒシュタインピアノを使ってコンサートを行い、100名近くのかたがたがこの音楽室に集まったという。今でも大活躍している。「本物との出会いは子供また人を飛躍させます。80年の歳月のつながりを大事にしてほしい」完成お披露目コンサートには戦前にこのピアノを使って子供たちに教えていたという老齢の音楽の先生も顔を見せ、「昔と変わらない音だった」と感慨深げな様子であったという。

コンサート記録:
『平成17年 小坂圭太と中川賢一の両教員によるベヒシュタインピアノ修復記念コンサート』
お茶の水女子大学講堂
2010年1月 ニューイヤーコンサート

(お茶の水女子大付属小学校玄関)

(お茶の水女子大学付属小学校音楽室)

ピアノは八王子の工房に移動され、寸法の精密測定の後、完全に解体された。
調律をするチューニングピンが植わるピン板と呼ばれる板を交換する為、専門的な修理が必要だったからだ。
ピアノの弦の総張力は約20tにも及ぶ。
約80年使用されたピアノの場合、チューニングピンが弦の張力で引っ張られ、亀裂が入ることがある。
このピアノも例外なく、ピン板にダメージが認められた。
――当時の音を再現して子供たちに届けたい。
こうして、このピアノの修復が始まった。

01
まず、我々はドイツから当時と同じメイプルの合板で作られたピン板を輸入した。
(この写真は、古いピン板をノコギリで切ったところ。)

02
ベヒシュタインピアノのピン板は、低音側と中高音側でピン板の高さが違う。古いピン板を正確に測定し、同じ高さにする為、片木で高さを調整する。
(古いピン板の形状に合わせ成形されたピン板を取り付けたところ。)

03
ピン板と鉄骨が接触する面を鉄骨の形状に合わせノミで形を整える。
ピン板は非常に硬い木でできているので、削る道具も手入れが行き届いているものでなければならない。
抜群の切れ味に仕上がっているノミを手に、慎重に、且つ丁寧に作業を行う。

04
正確に成形された後、ピン板はボディに固定される。

05
作業を進めていく内、弦の密集する高音側のコマ上面も劣化が認められた。
コマは弦振動を響板に伝える重要な媒体の一つである。
特に高音の弦は短いので弦の振れ幅が小さくエネルギーロスが起こりやすい。
高音側のコマ上面の劣化も修復を行うことにした。
まず、コマピンを抜きオリジナルの位置を正確にトレーシングペーパーに写し出した。

06
コマ上面の木が完全になくなるまでカンナで平らに削りだした。
ここでは、斜めになることなく左右対称に正確に削り出す必要がある。
狭い場所での正確なカンナ掛けは熟練の技術が要求される。

07
削ったコマの上に平らなシデの木を合わせる。
この時、両面が隙間なくぴったり合わなければならない。
隙間があると振動伝搬にロスが生じ、音色に影響を及ぼしてしまうからだ。

08
トレーシングペーパーに写した旧コマピンの位置を正確に書き写す。
弦長は張力と倍音構成を決める大きな要因になる。
ベヒシュタインらしさを出すために弦設計は厳格に守らなければならない。

09
弦の長さを正確に決めるのは研ぎ出された刃先と熟練した技術者の経験。
硬い木を一突きで削り出す技は、音に大きな影響を与えることは言うまでもない。

10
古くなったニスを削り、響板の表面に入った亀裂の修復の準備をする。
天然の樹脂で塗られた当時のニスは、薬品を使わずスクレーバーを使い丁寧に削り出す。

11
響板に入った亀裂に響板材と同じヨーロッパスプルースを埋め、表面を平らに削り出す。

12
複数の亀裂の修理を施し、響板に「クラウン」と呼ばれる膨らみを蘇らせた。
クラウンを指で感じながらさらに響板表面にカンナをかけ丁寧に仕上げる。

13
天然の樹脂からなる響板ニスは弾力性豊かで乾きがとても遅い。
ニスを塗った後も埃がかからないよう、覆いをかけ、10日程寝かせる。

14
ニスが乾き次の作業に向け準備される。

15
当時のコマピンは真鍮製が使われていた。現代のコマピンは鉄製だが、ピンの素材により音が当然違ってくる。
我々はドイツより当時と同じ素材のコマピンを輸入し古いものと交換した。

16
交換したピン板の上にバードアイメイプルと呼ばれる化粧板を貼り、オリジナルのチューニングピンの位置を正確に写し、穴をあける。
当時のベヒシュタインはピン板部分が完全に鉄骨で覆われていないため上面の美しい加工にまでこだわっている。

17
取り外された鉄骨の塗装を手で剥離する。同時に真鍮部分は綺麗に磨かれ、次の工程の塗料吹付けの為コーティングされる。

18
塗装面を平らに仕上げるためサーフェイサーという下地を吹きつける。

19
ベヒシュタインから取り寄せた、通称「金粉」と呼ばれる着色を施した塗料が吹きつけられた。
その後ピン並びにアグラフのコーティングを一つずつ丁寧に外す。

20
完成された共鳴部に鉄骨が取り付けられる。
この時、鉄骨とコマの高さの調整を正確に行う。

21
低音部の弦は芯線となる鉄線に銅線が巻きつけられている。
当時の低音弦はメーカーから供給されていない為、現物を正確に測定し同じものを一本ずつ手で作らなければならない。
我々は、材料にこだわり銅線も芯線もドイツから輸入したものを使用した。

22
いよいよ調弦が始まった。
チューニングピンも音に大きな影響があるので、ベヒシュタインが使用しているチューニングピンと同じ素材をドイツから輸入した。

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調弦が終わり第一回目の調律。
弦の下の緑のフェルトはベヒシュタインの純正品を取り寄せた。
ドイツのピアノメーカーはそれぞれ使用しているフェルトの色が異なっており、ベヒシュタインはシンボリックな色として100年以上モスグリーンを使っている。

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調弦が終わり第一回目の調律。
弦の下の緑のフェルトはベヒシュタインの純正品を取り寄せた。
ドイツのピアノメーカーはそれぞれ使用しているフェルトの色が異なっており、ベヒシュタインはシンボリックな色として100年以上モスグリーンを使っている。
調律風景1

25
ハンマーは製造番号をベヒシュタインに伝え最もふさわしいハンマーをベヒシュタインより取り寄せ。
古いハンマーを正確に測定し位置・角度等オリジナルに準じ交換した。

26
弦の響きを止めるダンパーフェルトもハンマー同様ベヒシュタインより取り寄せた。
調律風景2

27
ピアノには伝統的に鹿皮が多く使われている。
この皮もドイツより取り寄せオリジナル寸法に合わせ裁断した。
調律風景3

28
部品交換を終えたアクションは整調と呼ばれる寸法を正確にそろえる作業が行われる。
鍵盤の高さ、押さえた時の深さなど様々あるが、整調の仕上げは鍵盤の重さの調整になる。この時鍵盤を押した時の重さ、並びに押した鍵盤が戻る時の重さの両方を測定し揃えられなければならない。
調律風景4

29
このピアノは過去小さな修理が施されていた。
蝶板に使われているネジがプラスのネジ穴だったのである。
戦前のベヒシュタインはプラスのネジを使っていない。
我々はオリジナルにこだわりマイナスネジをドイツより取り寄せ、金属磨きの際に全て交換した。
調律風景5

30
すべての修復が終わり、ピアノが組みあがった。
しかし、これで完了というわけにはいかない。
その後、安定するまで何度も調律を繰り返し、整音が施される。
そして、いよいよピアノが仕上がった。
修理期間、およそ9カ月。
細部まで徹底的にこだわり抜いた。
長い時間をかけ、全ての材料・手法にこだわり、ベヒシュタインに精通した技術者が手掛けることによって、当時の音が再現できるのである。
調律風景6

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